04
file No.1
Name : Ace
Age : 10
Sex : male
Birthday : Jan 1
Artificial Intelligence : Strong AI
file No.5
Name : Luffy
Age : 7
Sex : male
Birthday : May 5
Artificial Intelligence : Transhuman H+
シャンクスはプロフィールデータを一通り眺めて、ファイルを開いたまま静かにデスクの上に置いた。これほどに頭が混乱しているのは初めてかもしれない。
あの村役場の男が言っていた二人の子供、それはここにファイルのある二人のアンドロイドのことを指しているのだろうか。いや、この二人とは別に本当に人間の子供が二人いたのかもしれない。その可能性は十分にある。だが、こうして子供二人のデータが出てきた以上、アンドロイドのことを指していると考えた方が納得がいく。
ここまでのデータが存在するのなら実際にアンドロイドが造られ、それはここで生活していたと見る方が現実的だ。何年も研究を続けてきたシャンクスの目から見ても、このデータはそれだけの情報量を持っていた。
これだけのデータがあれば、アンドロイドは造れる。と言うよりも、これだけの情報が揃っていてアンドロイドを造っていないと言われれば、それこそ疑わしい。
一体目のアンドロイド、エース。
少しばかり癖毛の、顔にそばかすのある10歳の少年。顔写真を見る限りでは人間の少年にしか見えないが、ファイルを捲ればそこには作り物である証がこと細かく記されている。頭の天辺から足の先に至るまで全てだ。
そして二体目、ルフィ。
エースより少し幼い7歳の少年。こっちのアンドロイドは一体目よりも『表情』があった。人間の顔だ。そこには明らかに感情が含まれている。
Artificial Intelligence。人工知能。エースのファイルに書いてある Strong AI は研究は進められているものの、実用には程遠いとされているものだ。本当にそれを完成させ、使用したアンドロイドだというのだろうか。
いや、それだけではない。ルフィのファイルに書かれている Transhuman H+ は研究としても未知の部分が多すぎる。実用など、あと何世紀かかるかと言われる代物だ。
それを本当に使用しているなんて簡単には信じられるものではない。この二人を造った奴が未来からやってきたと言われた方がまだ受け入れられる。それくらい非現実的な代物なのだ。
人工知能以外で気になるのは、ルフィのファイルナンバーが2ではなく5になっていることだ。No.5。普通に考えれば、ルフィは五体目のアンドロイドであると考えられる。しかしNo.2からNo.4のファイルは何処にも見当たらない。デスクの引き出しも、天井に届くほどの本棚も全て調べたが、何処にもない。
だとすれば、考えられるのは二体目から四体目のアンドロイドは失敗作だったということだ。納得のいくものが造れなかったからデータごと廃棄した、というところだろうか。
一番最初に造られたアンドロイドのエース。Strong AI の実用化に成功したアンドロイド。次に造られたアンドロイドにどのような仕組みの人工知能を取り入れたのかはわからないが、続けて3作は失敗。アンドロイドも残されず、データごと抹消。そして5作目、ルフィ。Transhuman
H+ を採用した新型。数度の失敗の後に漸く成功したアンドロイド。これが最も筋の通った考え方だと思う。
そして本当にそうだったとしたら、少なくともエースとルフィの二人だけはまだ存在している可能性が高い。データが丸々残っているのだから、本体も廃棄されてはいないと考えられる。だが、どういうわけかここにはいない。少なくとも三年前から。
この二人を造った人間と今も一緒に行動しているのか、それとも今は別々の場所に存在しているのか。前者であれば厄介だ。機関が創造主に接触する際にアンドロイドとも接触してしまう可能性が高い。だから後者であることを望むばかりだが、その場合二人が何処にいるのか検討もつかない。
二人の足取りを探るため、研究室兼書斎と思われるこの部屋を片っ端から調べていく。何処かに何らかの手がかりが残されている可能性がないわけではない。
しかし、やはりと言うべきか、そう簡単には見つかるものではなかったらしい。本棚の本を一冊ずつ開いてみても手がかりは見当たらない。昔いた場所ならともかく、その先の足取りを探るのは困難を極める。
もう一度二人のデータファイルに手を伸ばす。一枚一枚捲っていくが、記されているのは体内の構造ばかりで、何処で造られたのかなど、場所的な情報は一切記されていない。此処にアンドロイドを造るだけの機器が揃っていない以上、他の場所で造られたと考えられるのに、その情報は何処にもない。
やはりダメか、と諦めかけた時、ルフィのファイルの裏表紙に少し違和感を感じた。真ん中辺りが少し、ほんの少しだが表紙よりも分厚くなっている。光に透かしてみると、そこだけ四角い影が浮かぶ。
これが最後の手がかりだと思いつつ切り開くと、四つに折りたたまれた紙が一枚出てきた。開いてみると、其処にはこの場所とは随分と離れた街の名前と、住所が書かれていた。
これが何を指しているのかはわからない。ルフィのファイルから出てきたのだから、ルフィと関係ある可能性が高いように思われるのだが、全く関係ない可能性もある。だが、次に繋がる手がかりはこれしかない。ならばやはりここに行くしかないだろう。
隠し階段を上がり、地上へと出る。後からまた機関の者が来ないとも限らない。元の通りに地下への道を塞ぎ、認証装置に少し細工をしておく。エースとルフィのファイルは持ち出して来たから、それほど警戒する必要もないのかもしれないが、用心するに越したことはない。
家から出て鍵を閉める。役場に鍵を持って行くついでに、エースとルフィのことを村の者に訊ければ儲けものだ。
一番情報を持っているのは二人の同級生だ。3年前の時点で10歳と7歳だったと考えれば、今現在中学1年か小学4年の子供といったところか。
役場まで歩く道の途中、ちょうどランドセルを背負って歩く少年たちの姿が見え、声をかけてみる。エースとルフィも3年前は人間の中に混じって、この少年たちのように学校に通っていたのだろうか。
「なあ、お前ら。ちょっと訊きたいことがあるんだが」
「おじさんだれ?」
「おれか?おれは今日この町に来たんだ。3年前にこの町に住んでたエースとルフィって子のことについて訊きてえんだが、お前ら何か知ってるか?」
そう訊くと、少年たちの顔が少し曇った。エースとルフィの名前を出しただけだというのに、何かワケありらしい。
「……何がききたいの?」
「そうだな。一番訊きてえのは二人が今何処にいるか、だ」
「それは知らないよ。たぶん、この町の誰も知らない。突然いなくなっちゃったんだ」
「突然いなくなった?」
「うん。エース兄ちゃんのことはあんまり知らないけど、ルフィ兄ちゃんはよく一緒に遊んでもらってたんだ。でも3年前に突然二人ともこの町からいなくなっちゃった」
「転校したわけじゃねえのか?」
「よくわかんないけど、違うと思う。学校の先生たちも知らなかったみたいだから」
「先生も?じゃあ、その、突然いなくなったことに何かきっかけみたいなのはなかったのか?」
「きっかけっていうか……」
「何だ?」
「ん、と。僕たちはあんまりくわしく知らないんだけど、二人がいなくなったすぐ後に変なうわさが流れたんだ」
「噂?」
「うん。ルフィ兄ちゃんが、その……ふつうの人間じゃないって……」
それを聴いた瞬間、おれは眉をしかめた。普通の人間じゃない。それはアンドロイドだとばれてしまったということではないか。
おれの顔を見てか、少年たちは慌てたように言い繕う。
「で、でもっ!ぼくたちはそんなの信じてないよ!ルフィ兄ちゃんはいつも人気者で、一緒に遊んでくれた時も全然変なところなかったし!……だから、だからね。また帰ってきてくんないかな……って思ってるんだ」
「……そうか」
ルフィの人柄がだんだんと見えてくる。きっと子供らしい子供だったのだろう。周りの子供たちとなんら変わりのない生活を送って、毎日遊びに走り回る日々を楽しんでいたのだと思う。
だが、3年前のある日、それが全て壊れたのだ。何があったのかはわからないが、ルフィがアンドロイドであると一部の子供たちにばれてしまった。だから、逃げるようにこの町を出た。
「もう一つ訊くが、エースとルフィと一緒に住んでいた大人が一人いただろ?そいつも一緒にいなくなったのか?」
「大人?ううん。昔はおじさんが一緒にいたけど、ルフィ兄ちゃんたちがいなくなる何年か前にいなくなっちゃったんだ。だからルフィ兄ちゃんとエース兄ちゃんは二人で住んでたし、いなくなったのも二人だけだったよ」
「二人だけ……?」
「うん」
二人だけ。その言葉に引っかかる。造った人間がいない状態でアンドロイドが何年も二人だけで生活していたというのか。
そればかりか、二人しかいなかったということはつまり、この町を出て行くと決めたのも二人のアンドロイドだということになる。きっかけはわからない。だが、機械的にこの町に住み続けるのではなく、出て行くという選択肢を作り、選んだのだ。自分の意思で。
完成した人工知能。意思を持ったアンドロイド。それはもう、『人間』だ。
恐れていた事態が其処まで迫ってきている。
「なあ、少し前にこの町の者じゃない男が、何か訊きに訪ねて来たのを知ってるか?」
「うん。この辺の人はみんな知ってるよ。知らない人が来ること自体珍しいから。昔住んでたおじさんのこと聞いてたみたいだけど、おじさんの友達?」
「いや、あんまり仲良くはねえなあ。そいつもエースとルフィのこと訊いてったのか?」
「うーん。少しは訊いたかもしれないけど、多分あんまり知らないと思う。この前のおじさんは大人の人に話訊いて回ってたけど、大人たちはあんまりルフィ兄ちゃんたちのこと知らないんだ。もちろん、この町にいたこととかは知ってるけど、うわさのこととかは知らない」
「そうか。それは助かるな」
「その人、おじさんの敵なの?」
「ああ、まあ、そうだな。味方じゃねえしな」
「そっか。ぼくたちもこの前の人は嫌いだ」
思いっきり顔をしかめる少年たちに、つい笑ってしまった。子供らしい直感で何かを悟ったのだろうが、子供は正直だ。大人の汚いところなんて、子供には隠すことはできない。
「ねえ、おじさん」
「ん?何だ?」
「……ルフィ兄ちゃんたち、元気だよね?」
「………ああ。きっと、な」
「いつかまた会えるかな」
「そうだな……。会えたら、いいな。」
「うん」
少年たちに一つ礼を言って、役場へと向かう。大きな手がかりが掴めたとは言い難いが、エースとルフィの二人には何故か会えるのではないかという気が涌いてきた。
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