目の前に差し出された十センチ四方の箱を見て、シャンクスは盛大に眉を顰めた。
「お前は最近人使いってものが荒すぎる」
 剥れたような顔をして目を向けた先には、ベックマンが書籍整理を行っている。片手に分厚い本を十冊近く抱えながらも重そうな様子を一切見せない。研究尽くしで運動などしている暇は無いだろうに、筋力の衰えを一切見せないのだから恐れ入る。
 それにしたって、数十年前から進められた電子化のおかげで今や工学分野のみならず全ての研究分野、いやそればかりではなく、ビジネスにしろ教育にしろ日常生活にしろ須らく電子に支配されかかっているようなものなのに、いつの時代になろうとも紙というのはなくならないものらしい。実際、工学の最先端に直に触れているシャンクスですら本というものは嫌いではなかった。電子データに比べれば大きく場所をとり、あまり合理的ではないものだが、紙を捲る感覚というのは特別なものがある、と思う。
 更にいえば、deleteすれば一瞬で消えてしまうデータとは安心感が違う。見ることが出来る。触れることが出来る。そんな存在の確かさは、いつになろうと必要性のあるものなのだろう。
 しかし今シャンクスの目の前にあるのは、何の有り難味もないものだった。目の前の十センチ四方の箱の中には様々な型の補助記憶装置が入っていた。ざっと見て二十はあるだろう。一つ一つ傷つかないようにケースに入れてはあるが、こんなに雑多に箱に放り込まれては大切なんだかそうでもないんだかよくわからない。

 頬杖をつくシャンクスに、ベックマンは本を抱えたまま近付いてきた。そうして箱の中をチラリと見るなり、「それほど多くはないだろう」とのたまった。その言葉にシャンクスはいっそう眉を顰める。
 確かに、個数で見ればたかが二十数個だ。しかしこれは本ではない。全てリムーバブルメディアなのだ。二十数冊の本を渡されて、一定期日までに読めと言われれば文句の一つ二つこぼすくらいで終わらせてやってもいいが、この一つの補助記憶装置の中にいったいどれほどの情報量が詰め込まれていると思ってやがる。しかもその全てのデータを確認し、修正の必要な箇所を更に別の媒体に書き込めというのだから、人使いが荒いなんてもんじゃない。
 ベックマンとは長い付き合いではあるが、時にこうして無理難題を押し付けてくる。当の本人はそれを無理だと思っていない節があるから余計に性質が悪い。
「っつうか、これ人工知能の研究データだろ」
 箱の中から適当に一つ取り出したリムーバブルメディアをドライブに差し込む。そこに出てきたのは見覚えのあるデータばかりだった。機関にいた頃に毎日何千、何万と目にしていたものだ。
「完成版のデータを持ってるおれにこの未完成データを見せるかね」
 そう言うと、ベックマンは口に咥えたままの煙草をふかして、「だからだろう」と抑揚のない声で言った。
「あんたは人工知能の正解を知ってる。その上、人工知能を持った二人のアンドロイドを抱えてる。だから知ることが出来るし、その必要がある。今現在機関がどれくらい正解に近付いているのか、機関が人工知能を持ったアンドロイドを生み出す可能性がどれくらいあるのか。そうだろう?」
「………ああ」
 言っていることはわかる。実際その通りで、そのためにわざわざ持ち出してくれたのだろうから、そう思えばありがたい話でもある。
 だが、その方法の容赦の無さが、まったくこいつらしいと思う。基本的に自分にも人にも厳しい奴だが、本人はそれを厳しいと自覚していないのだ。全力を出せばギリギリでこなせるだろうというくらいのことを要求し、その代わり自分にも同様の量を課す。ある意味これ以上なくフェアな奴だ。ベックマンのそういうところは、決して嫌いではなかった。
 眠気覚ましにと淹れられたコーヒーを一口啜ると、ベックマンは「それに、」と続けた。
「機関の研究もいい加減行き詰っている節がある。これ以上進歩が見込めずに時間がだけが過ぎるようなら、また違うことを考え始めるかもしれないからな。表面上だけでもある程度進歩を見せる必要がある」
「……表面上、ねえ。それ結構面倒くせえんだけどな」
 正解をしっているからこそ、正解に近付けずにもっともらしい指摘をするというのは正解を教えるより遥かに難しい。一応昼夜を問わず研究を続けている奴らを欺かねばならないのだ。適当なことをすれば逆に危ない。
 はあ、とため息をこぼしたおれに、ベックマンは静かに言った。
「あんたが望んだ生活のためだ。辛抱しろ」
 おれはその言葉に思わず口角を上げる。おれの望んだ生活。頭にエースとルフィの顔が浮かぶ。あいつらとの生活を守るためなら我儘は言ってられねえなあ、とおれはディスプレイに向き直った。


 暫く懐かしいデータと対峙して、何杯目かの冷め切ったコーヒーを啜りながら、はあ、と息を吐く。
「ベンちゃーん。ダメだこれ。どうにも今日中には終わりそうにねえわ」
 そう言うと、ベックマンは眉間に皺を寄せる。一応精一杯やったんだから、そう怒ってくれるなよと思っていると、予想外の一言を吐かれた。
「まさか一日で終わらせようと思ってたのか?」
 その言葉に呆気に取られていたら、更に追い討ちをかけるように「終わるわけないだろう」と呟かれた。
「お……っ!まえなあ、そういうのはもっと早く言えよ!超頑張っちまったじゃねえか……」
 出来るならやってしまった方がいいのはわかっているが、それでも何となく損したような感覚は否めない。がっくりと項垂れたおれに、声音を全く変えないまま問う。
「ちなみにどこまで済んだ」
 右側に乱雑に積み重ねられた、既に用の済んだ補助記憶装置に目を向ける。適当に置いていったのは自分だが、パッと見ても数はわからない。代わりに左側の箱の中を覗き見た。こっちならすぐに数がわかる。
「あー…個数で言えばあと残り三つだな」
 容量で言うならば少ないものを残していたため残りはそう多くもないのだが、これに手をつければ間違いなく晩飯の時間に間に合わない。それは何より困る。おれは愛する息子たちが待っている家に帰らねばならないのだ。
「この短時間でそれだけ進むとはな。機関から離れても頭の方は全く衰えてないらしい」
「そりゃあ、現在進行形でおれの知識を必要としてくれる子が二人ばかりいるからな。そう簡単に衰えてもらっちゃあ困る」
「二人はどんな様子だ?」
 目覚めた後の二人に直接会ったことはないはずだが、ベックマンは二人のことを割と気にかけてくれている。おそらくアンドロイドだからだけではないだろう、と長年の付き合いから思う。
「元気だよ。毎日元気に食って、寝て、学んで、頭働かせて、たまに心を揺らされたりしながら、笑って過ごしてる」
「そうか。それは何よりだ」
「……ああ」
 そう返すのに空いたのはほんの少しの間だったが、ベックマンにとっては気にするくらいの長さであったらしい。煙草をふかして、窺うようにおれを見た。
 見透かされてんなあ、と心の中でそっと呟く。おそらく、おれは一生こいつにだけは何も隠し事が出来ないんじゃねえかと思う。
 はあ、と一つ息を吐いて、背もたれに身体を預ける。そうしておれは訊いた。
「………お前に判る範囲でいい。教えてくれ。最近機関内部はどんな感じだ」
 ベックマンはまだ吸い始めてそう時間の経っていない煙草を灰皿に押し付けた。
「大した変化はないように見える。今お前が見ていたように、人工知能の研究も然程進んでいるとは言い難い。お前がエースとルフィを連れて帰って来る原因となった、人工知能を完成させた男ってのも結局見つからないままだったらしいしな」
 エースは、ルフィが怪我を負うより二年近く前にそいつが突然姿を消したと言っていた。それからだともう十年以上は経っている。まさか今になってまだ捜しているとも思えないが、少なくともおれが二人に会った時は躍起になって捜していたはずだ。機関の追跡をそう易々とかわせるものではないだろう。ならばもう既にこの世から去っているのかもしれない。
「現状維持と言やあ聞こえはいいかもしれねえが、それが何年と続けば八方塞がりでしかねえな」
 人工知能をその手で完成した男は見つからず、人工知能も手に入らず、おれは機関を抜け、日々行われる研究も微々たる進歩のみとなれば、機関にとっては最悪だろう。
「ああ。実際、上は痺れを切らしているだろうな」
「今度は変な動きを始めなきゃいいが」
 ルフィとエースのことが機関にばれる可能性は低い。二人のデータはおれが持っているし、二人とも造られた時のままの年齢ではない。
 だが、もしも二人の生活を脅かすようなことがあるなら、その時はおれは何をしてでも阻むだろう。
「おれはどんなことをしても、二人の未来を守る。過去を奪っちまったおれには守れるものはもうこの先しかねえんだ」
 言いながら、情けない声だと自分でも思った。そしておれのそんな呟きに、ベックマンは訝しむような目を向けた。
「……過去を奪ったってのは腑に落ちねえな」
「ああ、お前はそう言うだろうと思った。けど実際にはおれは二人の過去を奪ってる。ルフィの記憶を守ってやれなかった。エースの記憶はこの手で消した」
「違うだろ。ルフィはどうしようもなかった。そしてエースは自らそれを望んだ。それであんたが自責する必要はない」
「それでもおれは、おれだけが二人の、七歳だったルフィと、十歳だったエースの記憶を持ってる。二人からは消えちまった記憶を、おれだけが知ってる。なあ、ベン。おれは二人にあの時のことを話すべきだと思うか?」
 俯けていた瞳をベックマンに向けると、理解に苦しむとでも言うかのように眉間に皺を寄せた。
「……あいつらは今、あんたの子供として新しい生を生きてるんだろ。それなのに辛かった記憶をわざわざ教える必要があるか?」
 確かにベックマンの言っていることには一理ある。消えてしまった記憶を、それもあまり良い思い出ばかりではないそれを教える必要はない。おれもずっとそう思っていた。だから今までエースにもルフィにも昔のことを話したりはしなかった。
 けれど、時々思う。本当に二人の記憶から消えているのか、と。エースにもルフィにも、あくまで稀にではあるが、昔のことをうっすらと覚えているのではないかと思わせる言動があった。
 そんな時につい考えてしまうのだ。二人は無意識のうちに懐古しているのではないか、と。
 確かにあれは決して良い思い出と呼べるものではなかった。知らずにいられるのなら知らないままの方がいいとも思う。
 だが、それでもあれは二人が生きた証だった。悲しいことも辛いことも理不尽な行動に振り回されて傷ついたことも、全部含めて二人が一生懸命に生きた証だったのだ。
 生きていれば、色んな体験をする。心があるから、嬉しいことも悲しいこともあるだろう。それが当然で、今のルフィとエースも同じように色んなことを感じながら生きている。哀しく辛い記憶だから無くなっていいというものではないのではないか。
 あの件だけではない。七歳と十歳の二人が生きた時間は、ルフィが怪我を負った時だけではなかった。他にも色んな体験をして、笑ったり、泣いたり、怒ったり、そうやって過ごした日々もおれは全て、delete一つで簡単に消してしまったのだ。
「おれは、たまによくわからなくなる。おれは二人に続きをつくると言った。それに対して二人は了承してくれた。だが、本当にこれは『続き』なのか?二人は昔のことを何も覚えていない。全て消えたとも言い切れないが、少なくとも思い出してはいない。あの時の二人をおれだけが知ってて、おれだけが続きだと思ってる。それは本当にあいつらが望んだ未来なのか?」
「……二人を目覚めさせたことを後悔してるのか?」
「してねえ」ベックマンの問いに、おれは間髪入れずに応えた。「それだけは断言出来る。おれにあの二人をあのまま眠らせるなんて選択肢はなかった。いや、今もねえんだ」
「だったら悩む必要も意味もないだろう」
「それでもおれは、あいつらに与えてやりたいんだ。平凡な、何でもない幸せってやつを」
 おれは二人のことを家族だと思っている。だが、この歳になるまでおれは家族ってものを持ったことが無かった。そんな己の身を哀れむ気持ちはこれっぽっちもない。本当の意味で家族と呼べる人はいなくとも、十分すぎるほど良くしてくれた人はいた。ここまで立派に育てて貰った。感謝の気持ちはあれど、不満など一つもなかった。
 それでも、本当の家族がどんなものだかおれは知らないから、ルフィとエースにおれは本当に家族を与えてやれているのかはわからない。
 あいつらは目覚めたときからおれの元で生活を始めて、あの家での生活しかしらない。だから、元となる基準が無いのだ。
 今の生活に満足してくれているのかもしれない。だが、他の生活もあると知ればそっちの方がいいと思うのかもしれない。昔、七歳のルフィと十歳のエースが過ごした日々の方が、あいつらにとって今よりずっといいものだったのかもしれない。
 そう考えたら、過去の記憶を、おれだけが知っていてあいつらは知らないこの状態はフェアじゃないのではないかと思ってしまう。おれが狡をして無理やり掴んでいるだけなのではないかと、そんな風に考えたくはないのに。
 おれのそんな弱音に、ベックマンはただ一言、「傲慢だな」と応えた。おれは力なく笑う。
「だよな。おれはあいつらの感情を否定しないとか言いながら、結局自分勝手に縛り付けてる」
「あんたの身勝手さなんか、昔からわかってたことだ。だが、おれの言ってるのはそういうことじゃない」
「だったら何だ」
「あんたはただ自分がそうしたくて二人を連れてきたんだろう。身勝手な我儘で二人に今の生活を与えた。あんたがそうしたいと思ったから、そうした。それは事実だ。だが、今二人が生きてるのはあいつらの意思だろう。あの二人が今の暮らしに満足しているか、幸せだと思っているか、それはあんたが考えることじゃない。あいつらが決めることだ。二人には、心がある。自分で考えられる。今の暮らしが嫌なら、他の暮らしを選ぶことだって出来る。あいつらが何を幸せと思うのか、それをあんたが決めようとしているのが傲慢だって言ってんだ」
 それに、とベックマンは続ける。
「さっき、あんた言ってただろう。ルフィとエースは笑って過ごしてるって。心を持ってるあいつらの笑顔を、他ならぬあんたが疑ってやるな」
 ゆっくりと目蓋を閉じると、二人の笑顔が浮かんだ。おれの身勝手から始まったこの日々を、信じていてもいいだろうか。いつまでも手放したくないというこの我儘を貫き通してもいいだろうか。
「あんたの身勝手さなんか、ずっと昔からわかってる。ルフィとエースもとうに知ってるだろ」
 そう言い退けたベックマンに、おれは、見透かされてんなあ、とまた小さく呟いて笑った。


 夕暮れの道を、歩いて帰途に着く。家々からは夕食の匂いが漂ってきて、服を汚した子どもが「ただいま」と声を張り上げながら家の中に入っていくのが見えた。
 家族の夕食だ、と思う。
 自分の家まで辿り着いて、扉に手をかける。おれはここでは一家の主だから、弱音を吐いたりはしない。あいつらの前でだけは、絶対。
 一度大きく息を吐き出して、戸を開けた。その瞬間、パンッと鼓膜を刺激する大音量が響いた。
「………な、」
 不意をつかれたおれの目の前には、飛び出してきた紙テープと、あたりに舞う紙吹雪。
「おかえり、そんで、おめでとうシャンクス!」
 ししし、と笑うルフィの手にはたった今破裂したクラッカーが三つほど握られている。その後ろにはエースが立っていて、片手で耳を押さえながら「だから一個で十分だって言っただろ」と、もう片方の手でルフィの頭を小突いた。
「だって派手な方が楽しいじゃねえか!あ、もしかしてエースもやりたかったか?大丈夫だぞ!あと二個あんだ。五個セットだったからな、やっていいぞ!」
 そう言ってまだポケットに忍ばしていたらしいクラッカーを取り出して、エースに差し出す。
「ばか、違えよ!近所迷惑ってもんを考えろって言ってんだ」
「おー、きんじょめーわくなー。おれそれ知ってんぞ。でもな、宴は派手で楽しくなきゃいけねえからな、だからエースもちょっと我慢な?」
 最近のルフィは少しおしゃまな女の子みたいなことを言う。ルフィが再び目覚めた時からおよそ十ヶ月。道筋が定められているわけではない、自由な成長をしているのかもしれない。
「ルフィ、お前な…」
 そう呟いて一つため息をこぼすエースも、一年前に比べれば随分と表情が豊かになった。
「……っていうか、宴って何だ。今日なんかお祝いすることでもあったのか?」
 疑問を口に出すと、二人揃って目をぱちくりとさせておれを見た。
「何言ってんだ。今日はシャンクスの誕生日だろ?誕生日は祝わなきゃいけねえんだぞ?」
「誕生日……?」
 少し考えて、ああ、と納得する。そういえばエースの誕生日の時にルフィに訊かれて、適当な日を言ったような気がする。
「そうか、そう言われてみれば3月9日って言った気がするな」
「気がする?シャンクス嘘ついたんか?!何でだ?!」
「あー、おれ自分の本当の誕生日って知らねえからな。悪い。騙すつもりがあったわけじゃねえんだが」
 まさか祝ってくれるとは思わなかったし、覚えてくれているとも思わなかったのだ。
 ルフィはおれを見て数度瞬きをすると、ニカッと笑って言った。
「そっか。じゃあ、今日がおれたちの決めたシャンクスの誕生日な!本当の誕生日わかんねえけど、おれたちにとっては今日!だからお祝いだ!そんでいいか?」
 どうしても祝う気でいるらしいルフィにおれは笑って、頷いた。
「ああ。ありがとな」

 頑張って準備したんだぞ、と言うルフィに手を引かれて向かったリビングは、確かに大仰な飾り付けが施されていた。ただし、まるで幼稚園のお遊戯会みたいで、おれはまた少し笑った。せっせと色紙と格闘するルフィと、部屋を散らかすなと文句を言いつつも結局は手伝ってやるエースの姿が目に浮かぶ。
 食卓の上には幾つもの料理が並べられていて、真ん中にはケーキも置いてあった。
「これ、全部作ったのか?」
「……まあ、味の保証はねえけど」
 ぶっきらぼうに答えるエースの背に後ろから飛びついて、肩越しに頭を覗かせたルフィは笑顔で言う。
「あんなー、出前とるかとか、ケーキは買った方がいいとか、色々言ってたんだけどな、エースが『シャンクスはたぶんおれたちが作った方が喜ぶから全部作るぞ』って言ってな、結局全部作ることにしたんだ」
「ば……っ!お前それ言うなってあれほど……!」
 ルフィの言葉に、エースは慌ててルフィを振り返るが、時既に遅しだった。
「あ、そうだった。わりい。今のなし!」
 エースはじとりとルフィを見るが、笑顔に負けたのか結局それ以上怒ることはなかった。代わりに大きくため息をついて、ばつの悪そうな顔をする。
「そうか。ありがとうな、エース」
 目を逸らしながら、小さく「ああ」と呟いたエースに、ルフィはまた、ししし、と笑った。

 誰かの笑顔が、こんなにも泣いてしまいそうなくらい幸せなもんだとは今まで知らなかった。
 傲慢だ。ベックマンはそう言った。間違ってないと思う。
 だが、それでもおれはこいつらからこんなにも幸せってもんを貰っちまってるから、傲慢にも願ってしまう。
 こいつらが、何でもないこんな日々を、幸せだと感じてくれていればいいと。



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